【朗読】「市井小説 短編」真面目に脇目も振らずに生きてきた、中年男に生じた“別の生き方”という誘惑!?【時代小説・歴史小説/藤沢周平】

[音楽] 今回は藤沢修平の指勢小説の短編を朗読し ます。 街のどこかでシミの音がしている。 似上がりの高い寝色でかが歌声も聞こえた 。信頼しかと鶴像はぼんやり思った。もう 5つ半、午後9時を回ったはずだが、町は まだどことなくざめき。歩いている路ジの 底には昼の間の処熱が淀んでいる。その ざめきの間を縫うようにして信頼語の声が 聞こえてくる。かかな歌声だが、艶のある 男の声が胸に染み通るようだった 。近年は本色の信頼流しに混じって声自慢 の素人が信頼を流して歩くことが流行って いる。鶴像と同業の矢のセがれなどもその 1人で去年の夏にこの辺りでばったりあっ てびっくりしたことがある。吉太郎という その屋のセがれはあさぎの片びに黒の 羽織りせったきの姿に放りという息なりで シミ線引きの若い女を連れて行った。鶴る を見ると本職の芸人のような口を聞いた。 これでは伊つ屋がセがれが肝心の店の仕事 にはさっぱり身を入れないと嘆くのも無理 はないと鶴像はその時思ったものである 。だが今鶴像が聞こえてくる信頼の歌声 から吉太郎を思い出し歩きながらぼんやり 考えていることは人間にはああいう生き方 もあるのだということだった。その思いに はかかな戦望の気持ちが混じっていた 。5年前の鶴像はそうは思わなかった だろうし、遊芸に溺れて商売を帰り見ない 吉太郎に人ごながら眉を潜めたに違い なかった。 鶴像の父は牙の在目屋に射力で働いていた 。夏の日は上半身裸で冬も1つで山のよう に木材を積んだ第八車を引いて江戸の町を 歩いた。鶴像は父親のようにはなりたく なかった。10の時に神田横山町にある さヶ谷という小物に方向に出ると懸命に 働いた。そのまま25年ヶ谷に方向し、 万頭も勤めた後、の連を分けてもらって、 深川のくまに小魔物の店を出した。その間 に尿房をもらい、子供が2人いる 。振り返ると単純だが真っすぐな1本の道 が見えた。その道を歩いて今の場所まで来 たことに鶴像はほぼ満足していた。店を 持った頃、鶴像は時々尿房のおに辛かった 小僧暴行の頃の思い出話を聞かせたりした 。そういう時、鶴像は今は2人だけとは いえ方向人を使い、旦那と呼ばれる身分に なった自分自身を撫で回すような目で 見つめていたのである。不満はなかった 。秋内の信用がつき、店はだんだんに繁盛 していた。25年最ヶ谷に方向している間 に掴んだ商売のコツが鶴像の思うがままに 空内の上に行き始めていた。尿房のおは 大なしい女で2人の子供は素直で丈夫に 育ち家の中の患いもなかった 。その竿像がごく稀れにだが、今のように 人間の別の生き方といったものに心を 囚われるようになったのは四重を過ぎて からだった。もっと詳しく言えば四重にの 役年を迎えた3年前頃からである。 県の店のある字になった鶴像は同業の 付き合いとかあるいは仕入れ先の人間を モてなす必要があったりして時々小料理屋 や茶屋で酒を飲むことがあった。そういう 時鶴像は自分をいかにもそういう場所に ふさわしくない人間のように感じるのだっ た 。一緒に飲んでいる人間は大方は体操離れ していて尺の女を相手にうまい軽口を叩い たり戦に合わせて渋い喉を聞かせたり合間 に女の手を握ったりする 。鶴像にはそういうことができなかった。 ただニコニコ笑いながら相手と女を眺めて 逆月きを口に運ぶだけである。女がそばに 座ってわざと膝をぶつけたりするとそれ だけで体が硬くなった。たまにぎこちない 冗談を口にしたりしてもそれを受けた女が いかにも大げさな笑い声を立てたりするの を聞くとすぐに疲れてしまった 。こちら本当においんですねと何年経って もそう言われた。でもあいは真面目な人が 好きさ。 そう言って酔った女が品だれかかってくる 。鶴像はニコニコ笑いながらその肩を抱い てやる。そうしながら女の嘘が見えていた 。その綺麗な女は野望の中年男をどう扱っ ていいか分からずにしているのだった 。しかし、そんな風だからと言って鶴像は それで足しげく茶屋に通って女の扱いを 覚えたり、ハウを習ったりして主席で女に モてたいということを考えているわけでは なかった 。ただそういう時鶴像の頭をかめるのは やりおうによってはこんな風でない後の 自分だってあり得たという風なことだった 。器に歌を歌ったり、何気ない風に女の指 をまさぐったりしている自分がいたかも しれない。そう思う気持ちにはわずかだが 開根が含まれていた 。そうなりたかったと通に思っているわけ でもなかった。脇目も降らずに歩いてきた 1本の道がある。鶴像はその道から はみ出したことがなかった。 遊びも知らず酒も飲まなかった。尿房のお が鶴像の触れた最初の女だったのである。 それだから一軒の店を持てたのだが、それ とは違う別の道を歩きたかったとはっきり 思うわけではなかった 。アイコンは仮に今そういうことを考えて ももはやり直しが効かない場所に来て しまったという思いから生まれた。その 気持ちはなぜか年々強まるようであった。 時にはその思いのために以前は輝くように 見えた自分の歩いてきた道が日がかった ように色わせて見えることさえあった。 それは鶴像が四重半ばになって行手におい と死が見え隠れするのに気づいたせいかも しれなかった。 歩いてきた道をそのまま歩いていくとそこ に死がある虚しさを見たせいかもしれ なかった 。だが、今夜妙にあの信頼語の声と写味線 が胸に染みるようなのはきっとあのことの せいに違いないと鶴像は思っていた。品者 の仕入れの相談があって最ヶ谷屋の万島と 飲んださっきの小料理屋で鶴像は35年 ぶりにある1人の女の消息を聞いたので ある。 おこさんって人覚えていますかと尺取りに 出たお松が言った。お松は2つ年下で同じ 町内で生まれた女だった。鶴像が初めて この小利屋に来た時、向こうから声をかけ てきて、それからは鶴像が来ると他に用が あっても一度は小座敷に顔を出して酒の尺 をし、昔の話などするようになった。お松 は近くの裏棚に住んでいて、大工の手間を しているの稼ぎが少ないのを小料理屋を 手伝って補っていた 。お待にそう言われた時、鶴像は覚えて いると言った。実際すぐに色でふっくとし た顔立ちをした少女のことを思い出してい た 。あの人をどうしているかね 。それがね 、お松は朝黒く変平な顔に気を持たせる ような表情を浮かべて鶴像を見、不に別の ことを言った 。あの人を好きだったでしょ?そんなこと はない。鶴像は言ったが、少し顔が赤く なったようだった。ほう。気な話になり ましたなと言って最屋の万島が鶴像に酒を ついだ 。そんなことはないとお祭に言ったが、 鶴像は嘘をついたわけではなかった。子供 の頃にも周囲からそう言われ、そんなこと はないと言った。その時と同じ曖昧な 気持ちがあった。 ゾ像が住んでいたオ船前の裏に中治という 相当の寺があった。その寺に深門という 中年もの浪人が寄遇していて、半年ばかり の間町の子供を集めて寺こ屋を開いたこと がある。は親たちが何かお礼を自賛すれば 黙って受け取ったが、お礼を出さなくとも 読みかきを教えたので、界隈からかなりの 子供が集まった 。子供たちの中で鋭造とおこの出来が 目立ってしばしば深に褒められた。こう いう2人を子供たちはすぐに結びつけて、 鶴像はおが好きで、おは鶴像が好きなのだ と生やし立てた 。そうした子供たちの気持ちの中には子供 なりの嫉妬と戦望が働いていたようである 。だが実際には鶴像は1度もおこと口を 聞いたことがなかった。 今は同じオフ前長にある小さなロソ屋の子 だった。しかしロソ屋の夫婦が産んだ子供 ではなく、ロソ屋の弟夫婦の子供だという ことだった。鶴像はそのことを自分の母親 から聞いたのである。おこは事情があって 3年前から決縁であるロソ屋に来ているの だった 。色が白くふっくとしたに淡の色を浮かべ 無口なおこはやはりよその町から来たこと いう感じがした。着ているものも鶴像やお 待など裏棚の子たちとは違う右切れなもの を着て寺屋に来る時の他は町に出て子供 たちと遊ぶということもなかった。 蔵像がおこと口を聞かなかったのはおこは 表棚の子で身分が違うという気持ちも働い ていたが、やはり他の子供たちに並べて 生やされたせいだったかもしれない。鶴像 はおを無視し、時にはわざと避けるような ことをした。 鶴像は11だったが、11の子供なりに無 責任な噂に対する反発があった 。しかし、鶴像はおこが嫌いなわけでは なかった。気持ちのどこかに自分とおこは 他の子供たちと違い特別なのだという感じ があった。そしてその気持ちは2つ年した 脳コにも分かっているに違いないという気 がした。そう思いながら鶴像は相変わらず お無視し、ある時他のこと話しているおこ が不に笑顔になり、ふっくらした頬にエ母 ができたのを見たばかりで罪を犯したよう に慌てて目をそらしたりした 。あんたおこんさんに会ったのかねと鶴像 はお松に行った。お松の表情はおこの消息 を知っていることを示していた。 懐かしかった 。そうなの?この間ばったりあったのよ。 どこで?すぐその辺よ 。お松はすだれを下げてある窓の方を 指さした 。もういい女将さんになっているだろうな 。それがさあ、びっくりしないでね。 ゾはお末を見た。何を言うつもりかと いかしい気持ちになっていた 。おこんさんそこの裾で働いているんです よ 。裾 鶴像は手にしていた逆月ড়きを前に戻し た。冬に頬を打たれたような衝撃があった 。女遊びには縁のない剣道にもそこがどう いう場所であるかは分かっている。男たち は今鶴像が飲んでいる中町や矢ぐらした。 その裏手の裾にただ酒を飲みに来るわけで はない。女の肉を買いに来るのである 。そうじゃありませんよ。お松は鶴像の 顔色を読んでいった 。まさか芸車やおろをしているわけじゃ ないんだけど、ま、お店で働いてんです けどさ 。だけど後で人に聞いた話ですが、 ちょっといかがわしい店なんですよね、 そこが 。つまり客と寝るわけかね。 そう、それにこれも後で耳に入ったことな んですけど、おこんさんどうやら悪い虫が ついているらしいですよ 。馬道通りに出て大の方に歩きながら、 鶴像はそういった時のお松の勝ち誇るよう だった表情を思い出していた。お松は多分 おこにあった後法や知り合いに正してそこ まで調べたのだ。残酷なことをすると鶴像 は思った。だが他人の不幸を確かめないで はいられないのはお待自身があまり幸せで はないからだろう 。やはり一度会うもんだろうか。 ゾはお末からその話を聞いた後で育度と なく繰り返した呪文をまた心の中で ゆり起こしてみた 。おのような人間は年頃になればさっさと いいところに嫁に行ってそれで縁が なくなったはずだった。そうだとばかり 思い、たまに思い出すことがあっても自分 の身に引きつけて考えたことなど1度も なかったのだ 。だが、お待の話を聞いた後では、おこは どうしても一度会ってみたい女に変わった ようだった。色が白く無口で賢かった おこんが今お場所の片隅で働き、時には男 と寝たりしているらしいということには 奇妙に鶴像の心を引きつけるものがあった 。しかも四さのおこにはまだ定まった定主 もなく紐のような男がいるのだという。 そこにはおこを捉えている波々でない愛欲 の匂いがする 。あってそういうおと自分も寝てみたいと 考えているのではなかった。 今が鶴像が考えていたような消化のない義 でなく、何になったのか確かめてみたい 気持ちが動いていた。そう思うのはおこが したいことをして生きている女のように 見えるためかもしれないと鶴像は思った 。あのおこにどうしてそんなことができた のか 。会えば面倒なことになるかもしれない。 剣をためらわせているのはその恐れだけ だった。おの紐だという男が怖かった。 あってもし妙なことになったりすればただ では住む前だがそうやって用人しておこに 合わなくともまた味けない日が続いていく だけのようにも思えた。 ちょうどやら下まで来た時、路地から 馬道通りに出てきた男がいた。男はちらと 鶴像を見たが、鶴像が頭を下げたのに挨拶 を返すでもなく、顔を背けて今鶴像が来た 方法学に向かってスタと歩いていった 。皆底にいるように町は青い月の光に包ま れていた。その光で男の顔がはっきり見え た。同じくまに住む乙じという丘きだった 。30過ぎの人層の険しい男である 。この深夜にどこに行くのかと鶴像は思っ た。お父に会ったために次におこのことを 思い出したのはやぐらしたを過ぎてから だった。 馬道通りから稲横町に入るとおじはその奥 をさらに左の路地に入り込んだ。月の光も 刺さない暗くて細い路ジだった。路ジの 空気は締めっぽくかに正べ臭い匂いが漂っ ている。 傾いた板を引いてお父は一軒の店に 入り込んだ。つ目を焼く匂いと煙がお父の 花を襲った。お父は目を伏せて奥の方に 行くと蓋が割れている樽に腰を下ろし、 反題に肘をついて改めて店の中を眺め回し た 。板葉から灰色の髪をした年寄りが首を 突き出して音を見ている。探るような目の 色だった。 開け 。お父は低い声で言うと目を伏せた。客は 60ぐらいのよぼよぼのじいさんが1人。 相撲のように太った中年男。それに板に 寄りかかるようにしてこちらを眺めている 若い男2人。それだけだった 。相取りのような体格の男は職人らしく 腹がけをしていた。腹がけが格好に大きい のは自分のうちで作らせたのかもしれ なかった。突き出した腹を包んでまだ布が 余っているので男の体は余計に大きく見え た 。男はかなり酔っていて時々ブツブツと 何かつやきながら目をつって体を前後に ゆった。すると反大と樽が一斉にきしみ おじに酒を運んできたが 気づかばわばわしげにそちらを振り向いた 。 俺にもす目を焼いてくんなとおじは言った 。はへえと言ったがすぐには立ち去らずに おじの逆月きにいっぱい酒をついた 。お客さんはこのご近所の人 で何度同じことを聞くんだね 。お父は静かに言った 。お前さん昨いもそう聞いたぜ。俺はこの 先の島田町のものだよ。この店が気に入っ てきてるんだ。何か文句があるかね ?いえ、とんでもありませんとは言った。 すると板に持たれてお父を眺めていた2人 がクスクと笑った。お父がそちらを見ると 2人は慌てる風もなくゆっくり体を回して お父に背を向けた。その姿勢のまま2人は 頭を付け合うようにしてまた笑った。 耳障りな笑い声だった 。1人は20十歳になったかならずといっ た年頃で、もう1人は明らかに20十歳前 の子供でもなく大人でもない顔をした男 だった。年上の方が丸顔で若い方は頬が こけていたが2人とも物を見るように人を 見る目をしていた 。気をつけなきゃいけねえのはあの2人 だけだなとお父は思った。 大きな体をした男はただの職人のようだっ たし、隅の方に追いつれているよぼよぼの 年よりも別に怪しい人間には見えなかった 。入り口の戸が傾き、赤城鎮も出ていない 。ここを飲み屋だと知って路ジの奥まで 入り込んでくる人間はそう多くはない。 口打ちこそ泥語り角沸かしなど浮おの裏の 仕事で飯を食っている男たちか鼻が効く近 の飲み助かに限られる 。そして近所のたちはここがある種類の男 たちの場になっていることに気づいてい ないはずだった。気づけばただでは済ま ないのだ。灰色の髪をした一くありげな顔 の定主が大男と年寄りに飲ませているのは この2人が店にとって無外な人間だと 見極めがついているからだろうとお父は 思った 。お父は用人深くほんの少しすすった 逆月きを下に置くとす目を咲いて噛んだ。 すると入り口から誰かが入ってきた気配が した 。は俯いたまます目を噛み、また逆月きに 手を伸ばした。見なくとも今入ってきた 人間がこちらをじっと見ているのがわかる 。職人風の男がまた体をゆっているらしく 、ギチギチと反題がき信だ。そして信顔の 客が低い声で停主と話す声が聞こえた。 その時になって、お父は顔をあげて新しい 客をちらと見た。一別でたくさんだった。 客は30半ばのがっしりした体格の男だっ たが、ロソの光に浮かび上がった横顔には 波々みでない凄んだ色が張り付いている。 にこの店の張り込みを命じた南町業所の 同身篠崎り介が人を殺すことなんざ何とも 思わねえ連中がとグを巻いている店だ。気 をつけなと言ったそういう種類の男だった 。男が振り向く寸前にほを伏せて手に持っ たす目を咲いた。少し胸の同機が高まって いた。男がまだこちらを見つめているのが 分かる 。その男が篠崎が言う徳次郎という男か どうかは分からなかった。都市格好は似っ ていて伸びた逆きこけた頬の辺りも篠崎が 言った男に似ていた。だが徳次郎は色で 体付きのほっそりした男だともし崎は言っ たのだ。今不気味にこちらを見つめている 男は体つきが違うようでもあった 。女が来れば分かることだとお父は思った 。徳次郎は人を指して殺して江戸の町の どこかに潜んでいるが、そろそろ金が なくなって浮かび上がってくる頃だった。 姿を消してから一月近く経つ 。また潜るにしろ、高跳飛びするにしろ、 どっち道ち野郎は金がいる。女を見張って いれば必ず現れるさと篠崎は言い、お父は それ以来徳次郎の女を見張っていて、半月 ほど前からこの店のことも知った。だが 徳次郎はまだ姿を見せていなかった 。女は馬道通りの北側にある。表向きは 小料理屋で中身は宿のような一見で働いて いる。住み込みで自分の住む家はなかった 。お父が見張りに着いてからしばらくの間 は女は昼の間に他の女たちと外に買い物に 出る程度で他は若いその小料理屋から一歩 も外に出なかった 。この女が急に毎晩を抜け出してこの店に 来るようになったのはここ半月ばかりの ことである。大抵は夜遅く待ち戸が閉まる わずか前に来てすぐに慌たしく帰っていく 。女をつけてきてお父はこの店のことを 知ったのだが初めの間はここが飲み屋に なっていることが分からなかったのである 。 篠崎はさすがにこの辺りを見回る城回りで ここがどういう立ちの店かよく知っていた 。特の野郎も念具宮具の収め時きだぜ。 あいつはネズミみてに用人深いやだから あれ以来女に頼りをしてねえのだ。だから 女が慌てているのさ 。見張ってろ。必ずその店に野郎が現れる からと。 篠崎は言ったのである 。店にいる連中に怪しまれないようにおじ はとっくりを1本開け、新しく酒を注文し た 。は酒を運んでくると何か言いたそうに 一時お父の前に立ち止まったが黙って板場 に戻っていった。まだお父の正体がつめ ないのが不安なのかもしれなかった 。そう簡単に正体が知れてたまるかい 。おじは心の中であざけり笑った。お父は 実手を持っていなかった。この辺りは 縄張り違いで知った顔に出会う恐れが 少なかったが毎一おかきだなどということ が分かれば殺されるかもしれないのだ。 実手の代わりに篠崎の許しをもらって懐に 相口を飲んでいる。篠崎は使うなよと言っ たがお父はいざという時にそれを使う つもりだった。やらなければやられる世界 に踏み込んでいることが分かっていた。彼 らはおかぴきという名前や実手に恐れいる ような連中ではないのだ。 徳次郎の上のことを考えている間にお父の 脳りを不に別の女の顔が横切った。それは さっきやら下ですれ違った熊魔物の尿房の 顔だった。お波という名でいい女だった 。56年前、お父はっきりとある横島な 気持ちを抱いてこ物屋を尋ねたことがある 。 鶴像というさっきの定主が家を出るのを 見届けてから行ったのである。買い物では なく調べがあると言って実手を出して見せ た。おという尿房に隙があるようだったら 調べにけて奥に入り込み犯すつもりだった 。そういう風にして犯した女が4人いたが 、女たちは実手を恐れて誰もそのことを外 に漏らさなかった。それどころか、ある 豊島のご家などはたった1度の常時ですぐ に上取りになったものである。お父は約得 だと考えていた 。30を過ぎてまだ1人身だがいつも女に 不自由はしていない。だが、おという 小魔物屋の尿房はお父に隙を見せなかった 。ありきたりの調子で雇い人の身元調べを しただけでお父はこ物屋を出た。その時に は店に入る時、体が膨らむほどだった欲望 がすっかり萎えていった。 来た 。を開けて入ってきた徳次郎の見ながら おじはさりげなく逆づきを置きする目を 咲きながら板場を見た 。30半ばのふっくとした顔の女だった。 色で目が黒と濡れて見え、洗い稼ぎをして いる女には見えない。だがその女が篠崎の 言う徳次郎のだ。女がい場のすぐ前に座っ ている男に話しかけるかどうか。お父は息 を詰めて見守った 。だが女は30半ばのその男を軽く一別し ただけだった。すぐにい場を覗き、聖主と 小声で双子と巫女と話すと出口に向かった 。女の横顔にはっきり楽胆の色が浮かぶの をおじは見た。女は今夜も徳次郎に会え なかったのだ 。今夜はこれでおしまいだ 。女が出ていくのを見届けるとお父は残っ ている酒を大急ぎで開けあかんで1本くん なと言った 。30半ばの凄んだ顔の男と職人が出て いき、亭主が酔いつれている年寄りを 起こしにかかったのを見てお父はようやく 立ち上がった。すると板に寄りかかってい た若い男2人が振り向いておじを見送った 。お父は気づかないふりをして感情を済ま せ外に出た。遠しめる寸前。若い男2人が 寄制を上げて笑い出す声を聞いた。 剣道を2階に上げると太って背の低い女は 安に火を入れた。照らし出されたのは所々 壁がハげ落ちている陰キ臭い部屋だった 。お1人ですか?膝をついた女がそう言っ た。顔も膝も丸い30前後の女だった。 1 人ですよ。ではお酒を持ってきますけど、どなたを呼びますか?ドなたと言うと国やかやかどこかお馴染みさんがいるんじゃございませんか。女はかしそうに像を見ていった。像は赤くなった。うろえていた。 いや、そういう人はいないんだ 。実はね、お姉さん、私はこの家にいる おこさんという人に合わせてもらいたいと 思ってきたんだが 、あら、おこんさん にそういうことはできるもんかね。ええ、 構いませんですよ。 顔の丸い女はそう言って頷いたが、急に 満面にな笑いを浮かべた。 旦那、おさんをご存知なんですか?いや、 そういうわけで もいいですよ。隠さなくても 。女は少し出っぱ気味の丈夫そうな歯を 剥き出して笑った。すると目尻に驚くほど たくさんのシが現れた。 おこんさん人気があるからね。隅に置け ないよ、この人 。女は突然存在な口調になって、 立ち上がりにドンと釣るぞの肩を打つと 部屋を出ていった。 鶴像は女が出ていった後の生事を呆然と 見つめて座っていった。ひどく落ち着か ない気分になっていた。その気分の底には かかな後悔が含まれている 。落ち着かないのは第1にこちらが覚えて いても向こうが自分のことを忘れているか もしれないという器具のためだった。 何しろ30年以上も昔のことである。おこ がわずか半年ほどの寺こ屋時代のことを 忘れてしまったとしてもちっとも不思議で はないのだ。としてあの時こちらが密かに 行為を持っていたとしてもおこの方では どう思っていたか分からないことだった 。おこが昔のことをすっかり忘れていたと したらこの面会は無意味で惨目なものに なるだろうと鶴像は思っていた。そう 考えると30年も昔のことを5章大事に 持ち回ってこんな場所に座っている自分が 国形で痛まれなくなるようだった 。そしてもし昔のことを覚えていたとして も支重を過ぎてこんな場所で働いている 自分を見られることをおこは喜ばないかも しれないという心配もあった。恥を欠かせ に来たと誤解するかもしれない。 やっぱり来るんじゃなかったか 。今のうちなら逃げ出せると思い、そうか と言ってその決心もつかず鶴像が落ち着き なく座っていると廊下に足音がした 。こんばんは 。低いが住んだ声と一緒に白っぽい浴衣に 大柄な体を包んだ女が入ってきた。女は 部屋に入ると改めていらっしゃいましと 挨拶し、廊下に置いた善と酒の用意を慣れ た手付きで運び入れ、鶴像の前に並べた。 その間鶴像は硬くなって女のすることを 見つめた 。お1つと言って鶴像に逆きを持たせて 積むと女は改めて正面から鶴像を見た 。 黒めがちの目でじまじと見られてるぞ眩しそうに目をらしを含んだ。顔が赤くなるのが分かった。お客さん私をご存知の方だね。お今コは微笑傷した。ふっくらとした頬に久保が現れた。鶴像は胸を抜かれたような気がした。 目の前にいるのはしっとりとシみ1つない 肌をした大柄な女だったが間違いなく怒ん だった 。ああ、そうです 。当ててみましょうか 。おこは首をかしげる仕草をした。どう見 ても四重には間がある30半ばの女に見え た 。こんなことをおっしゃって私を尋ねて くる人は1人しかおりませんもの 。鶴蔵さんね。お久しぶり 。おこはそう言うと首を救めていたずら っぽく笑った。若かわ々かしい仕草だった 。鶴像は声が出なかった。こんな風におこ の口から自分の名前が出てくるとは夢にも 思わなかったのである。たくさん言葉を つねてその果てにどうにか思い出して もらえれば本毛だといった気持ちだったの だ。おこの言葉で35年前の中営児の光景 が鮮やかに蘇えるようだった。 鶴像はおこに逆月きを刺すと黙って酒を ついだ。おこは細い両手の指先で受けると 綺麗に干して逆きを返したが、一瞬青の毛 に喉を見せた時、白い大きな鳥が手を仰い だように見えた 。よくわかったねと鶴像は言った。年がい もなく声が少し震えた 。私はとてもすぐには分かってもらえない だろうと思っていたのだが 、そりゃすぐに分かりましたよ。昔随分 生やされた中ですもの 。おは尺をしながら鶴像の目を覗き込んで 薬と笑った 。あの時私は嬉しかったんですよ。 とっても鶴さんはご迷惑だったかもしれませんけど。 迷惑だなんてあんた。私はあんたを空いていたのだと喉で言葉が出かかっていたが、鶴像はそれを言えずに口ごもった。お松さんにあんたのことを聞いてね。 鶴像は話を変えて自分がどうしてここに 来るようになったのかを話した。おこは首 を傾けてニコニコ笑いながら聞いている。 お待のが出ても同じ様子もなくに時々エ母 が現れたり消えたりした 。おこが今の教軍を弾りして見せないのが 気持ちかった。 今は惨じめどころか女の実りのさ中にいて 地震に溢れているように見えた 。ありがとう、鶴像さん。 鶴像が話し終わるとおこはしんみりした 口調で言った 。もう私のことなど誰も覚えていちゃくれ ないと思っていましたよ 。こんな商売をしてますからね。忘れられ た方が気が楽かもしれませんけどね 。でも鶴蔵さんには時々思い出してもらい たいと思っていました。私これまで とっても不幸せでしたから 。おこは鶴像の目を覗き込むようにして いった 。要遠な目だった。 おこんさん 。鶴像は手を伸ばしておこの手を握った。 少し汗ばんでいるしなやかな指だった。 若いもののように高ぶった気分に支配され ていた。おこの今の教遇のことも紐のよう な男がいると言ったお松の言葉も鶴像は ほとんど忘れかけていった 。不思議ね。 ゾ像に手を委ねたまま、おこはなぞめいた 美償を浮かべた 。私たちあの頃には1度も話したりした ことがなかったのにね 。この女とは深まにはまることになるかも しれないと鶴像はちらと思った。だがその 流れにもう身を委ねている自分を感じた 。いつも途中から引き返したが、引き返せ ないこともあるものだなと思っていた 。お父は舐めるようにして少しずつ逆月き の酒を減らしていた 。おじの1つ前の反題には24後の若い男 がいて、丹念にするを咲いている。小布の 結食のいい若者だった。酒はそんなに飲ん でいないようで、時々入り口の方を 振り返るのが落ち着きなく目障りだった 。その男の他に壁際にいつもの目つきの 悪い2人がトグを巻いていって、職人風の 大男がいた。 遅くまでいて酔いつれてしまう爺の代わり に今夜はその席にみの粗末な夫婦者のよう な男と女がいる。その男と女は2人とも 険しい人層をしていたが、女の方はこに 凶悪な人層をしていた 。2人は飲みながら時々鋭い早口で降論を した 。 人し切りに罵の知り合うと黙々と食い月きを口に運ぶ人の大男は今夜も十分に酔っき出たの上に指をみ、いに思い出したように前後にゆった。 すると反大と樽がギチギチと悲鳴をあげ、 その度にい場から定主が首を突き出して 気づかわしに反対の方を眺めた。 来たぞ 。お父は逆月きを持ち上げて口に運び ながらさりげなく入口の方に目を移した。 入り口を背にして徳次郎の上が立っている 。 大柄で顔立ちがふっくとした色っぽい女 だった。女は立ったまま店の中を見回して いる。だが見回したところでこれだけの 人数だった 。また無駄足だったぜ 。そう思った時、板葉から顔を出した店主 が何か言い、頷いた女がつかつかと奥に 歩いてきた。お父は逆月きを置いて思わず 身構えるように状態を起こしたが、女は 音じを目指してきたのではなかった。1つ 前の席に背を向けて座ると小布鳥の若者と 向い合った 。お父はゆっくりとっくりを傾けて酒を 継ぎながら全身を耳にした 。そうか。北次郎は来ないで使いをよした のか 。女が鋭い早口で若者に何か問いたして いる。それに答える男の声はボソボソして いてほとんど聞き取れなかった。 え、それで今どこにいるのさと女が言い、 それに答える男の声にお父は顔を突き出す ようにして耳をそばたが、男の声は はっきりしなかった。困っているとか金が とかいう言葉がキれギれに耳に入ってくる 。間違いなく男は徳次郎がよした使いだっ た。 篠崎が予想したように徳次郎はいよいよ金 に詰まって女に連絡をつけてきたのだ 。バカ言っちゃいけないよ 。不に女が普通の小で言った。少し酔って いる声だった。男がしっと言ったが女は ほんの少し声を落としただけだった 。私に20両の金が作れるわけはない だろう。2両か3両って言うならともかく さ、そんなことはたけちゃんあんただって 分かってるだろ 。しかし兄貴は本当に困ってるんだ。 頼れるのは姉さんしかないと言ってる 。男の方が用人深くさき声で言ったが、 お父は俯いて逆月きを舐めながらその声を 聞いた 。いっぱいご馳になるよと言って女が男の 酒を飲んだ気配がした。それから女は しばらく黙ったが、やがてポンと手を叩い た 。待って。なんとかなるかもしれないよ。 たけちゃん。本当か ?今カモがネギって寄ってきたんだよ、私 にさ 。女はク笑笑った。それから伸び上がって 男の耳に顔を近づけると何かさいた。する と男もクスク笑った 。もう寝たのかい ?バカ言うんじゃないよ。そんなことし たらあの人が焼くじゃないか 。男と女はそれからまた小声に戻って しばらく話し、やがて女が先に帰った。男 が立ち上がり、外に出るのを確かめてから おじも感情を払って後を追った 。月は半月だったが、空は綺麗に晴れてい て、町は十分に明るかった。細い路地の 暗がりの向こうに稲横の通りが皆底のよう に青く見える。男がその光の中に出て魚が 泳ぐように左に折れたのが見えた 。おじは小走に路ジをかけた。あの男の後 を追っていけばうまくいくと徳次郎が隠れ ている場所に連れて行ってもらえるだろう しそううまくいかなくとも男を捉えて 履せることはできるとお父は思っていった 。だが、稲横を出たところで、お父は不に 前後2人の若い男に塞がれていった。月の 光に照らされてニヤニヤ笑っているのは 飲み屋でいつも板に張りつくようにして 飲んでいる2人だった 。ドキなとお父は言った 。お兄さんよ、あんた何者だいと前に立っ た1人が言った。年上の方の男だった 。おかぴだろ?そうじゃねえのかい?そう さ、おかきさ、匂いでわかる。くせえ犬の 匂いがするともう1人が歯を剥き出すよう な言い方をした 。そんなもんじゃねえ。ドキナ。俺はうち へ戻るんだから。 お父が強引に前に出ると男が素早く 飛び下がって懐から相口を出した。後ろを 見ると頬の痩せた若い男も腰を落として 愛口を構えていった 。うちへ帰るって。そいつはおかしくねえ かい。法学が違うぜ 。やろう。後をつけたな。お父はカッと なった。 跡をつけられた今いましたと仕事を邪魔さ れた腹立ちが一緒になっていた。2人を 甘く見ていたと思った。相口を構えている 2人は少しも酔っていないようだった 。どっちから帰ろうと俺の勝手だ。邪魔 するんじゃねえぜ。わけ の音がすごむと2人はクスクス笑った。と していきなり後ろの男が切りかかってきた 。お父は体をねじってかわしたが、袖を 切られていた 。こいつは犬だぜ。消しちまえ。 切りかかった男が素早く身をひ返し ながらめいた 。お父は懐から相口を掴み出すとさやを 捨てた。懐かしい手触りが伝わってきた。 は篠崎に拾われるまで爆地内だった。 爆地内にも好きな女ができて一緒に 暮らそうと思っていた矢に女が夜道で犯さ れて死んだ。篠崎がその事件を扱ったのだ が、お父は役人に頼らずに単心で犯人を 追い詰めさした。同時に爆地から足を洗っ ておかきに変わったのである 。10年以上も前のことで死んだ女の おかげも記憶から薄れたが、その時の凶暴 な怒りだけはまだ生きていた 。いい格好しやがってく野郎 。お父は歯を剥き出しての知った 。手加減はしねえぜ。おい 。男たちがぎょっとしたように顔を 見合わせた隙にお父は吸いつくように右側 の男にすり寄ると相口を突き出した。男は 飛び下がったが、かわしきれずに桃を刺さ れて悲鳴をあげた。だが刺されながら男は 相口を振い、もう1人の頬のこけた男も 背後から音を襲ってきた 。肩口を切られたらしく、左肩から腕に かけて痛みが走ったが、お父は逃げずに体 を沈めてぶつかってきた男の腹を刺した。 弾かれたように男の体が後ろに飛んだ。 重い音を立てて男の体が地面に横転すると 、もう1人の男は急に繊維を失ったように 相口を構えたまま刺された桃をかって後ろ に下がった 。それっきりか。おい 。おじは相口を手に下げたままじリじリと 男を追った。相口を前に突き出したまま男 は恐怖に顔を歪め、大きく体を傾けながら 後ろに下がった 。お父は鋭く足を飛ばして男の相口を 蹴り上げた。中を飛んだ相口が鋭い音を 立てて3件ほど向こうの道の上に落ちた。 男は駆け寄ろうとして転び地面を張った 。命だけは助けてやら。それほどの恨みも ねえしな 。おじはさやを拾って相口を納めながら 言った 。仲間を呼んでくるんだな。今のうちなら そっちの野郎も助かるだろうぜ 。8月の光が江戸の町を照らしていた。 午後の日差しは荒々しく柳や道を 照らし出していたが、それほど暑くは なかった 。鶴像は濃い影を地上に落としている オートリーをくぐるとなおもせっせと道を 急いだ。途中何度も懐を探ったが金は ずしりとした手応えを伝えてくる。金は 25両あった。大金だったが、この金で おこがインバ宿に等しい若を抜け出すこと ができるのだと思うと惜しくはなかった 。今の商売から足を洗い、たえ狭いところ でも家を借りて働きながら鶴像が訪ねて くるのを待てたらどんなにいいだろうと 夕べおこが言ったのである。そういった時 、おは鶴像と1つとの中にいた 。白い羅シがまだ鶴像の目の奥で跳ねて いる。それは2人の幸運で衰えたおの体と は比べ物にならない閲落の蜜を隠した壺 だった 。何か新しいことが始まったのだと鶴像は 思わないわけにはいかない。初めから おこんと寝たいと思って通い始めたわけで はなかった 。だが夕べの結びつきは熟した身が落ちる ように自然だったのだ。それにしても随分 長い周り道をしたものだ。 裾に入り込んで若の前に立った時も鶴像は まだそのことを考えていった 。おや、いらっしゃいまし。遠を開けたの はお席という女中だった。鶴像が初めて この店を尋ねた時、部屋に案内した背が 低く太った女である 。お早い起こしで 。お席はそう言うと横を向いて大きなあび をし、あびの途中でごめんなさいと言った 。化粧していない顔に一面にそばカスが 浮いて目尻の辺りには目を背けるほどの 小じが溜まっているが鶴像はお席のために 金を出すわけではない 。店を覗いた。店の中は薄暗くしんと 静まり返っている 。おこさんはいますかな?いますよ。でも 起きたかしらね 。お席はまあ上がってくださいとどまに 鶴像を招き入れた 。私ら夜が遅いから起きるのはいつも今頃 になるんですよね 。そうか。少し 早く来すぎたようだな。だがおこんさんに急ぎのようができたもので。 分かってますよ、旦那。 店に入って奥にある部屋に案内しながらお席は別にからかう口調でもなく言った。夕べの今日で早くおこさんの顔が見たかったんでしょ。お席の言葉を鶴像はの空で聞いた。 部屋で長い間待たされた。その間お席がお 茶をいっぱい出しただけだったが鶴像は苦 にならなかった。25両の金を揃えて出し たらおこがさぞ喜ぶだろうとそれだけを 考えていった 。おこが座敷に来たのは半時も過ぎてから だった 。すみませんとおこは言った。化粧してい たが、どこなく晴れぼったいような顔をし ていた 。頭が重くて今まで寝てたんですよ 。それは起こして済まなかったな。 鶴蔵さんが悪いんですよ 。不におこは言って軽く鶴像を睨んだ。 睨みながらその目が笑っている。 鶴像は顔が赤くなった。赤くなりながら 鶴像は今まで感じたことがない幸福な感情 が心を包んでくるのに気づいた 。金を持ってきた 鶴像は懐から金包みを取り出して畳に置く とおこの前に押してやった 。あんたの金だ。使ってください。25両 ある 。ああ 。おこんは男性のように声をもらした 。ありがとうさん。でも本当に頂いていい のかしら ?もちろんですよ。使ってもらうために 持ってきた金です。 鶴像が言った時、ふの向こうで咳払いの音 がして、旦那、そいつは考え物ですぜと いう声がした。2人がぎょっとして目を 見合わせているとふが開いて男が1人 ズカズカと入ってきた 。ああ、あんた は鶴像が言うのに構わずにお父は腰を眺め て金包みをおの前から鶴像の膝に 戻しもったいない25両と言った 。あんたどなた?キッとなっておこんが 言った。鋭い口調になり、おこんは顔色が 変わっていた。 俺が誰かは今に分かるさ。 は軽くいすと腰を下ろして鶴像に行った。 旦那、私は別に頼まれたわけじゃないけど 気になってお聞きするんだが、その金が どう使われるかご存知ですかい ?どうってこの人がここのお店の借金を 抜いてもらう金ですよ 。本気でそんなことを考えていなすったん ですかい?こいつは驚いたな。 おじはズけずけと言った。それが本当ならそいつは男の解消でね。私が別に横から直回を出す筋合いじゃないんだが。だ旦那このおこに借金なんぞありませんよ。嘘だと思ったらここの神さんに聞いてごらん。借金がないって。 鶴像はおこの顔とお父の顔を見比べた 。おこは顔を背けていった。 じゃあこの金は何に使うんです?この人が 私を騙して25両巻き上げにかかったとで も言うんですか ?この人はね 。おじはおこを指びさした 。大変な人なんだ。徳次郎という人殺しが いましてね、7つも年下のその徳次郎と いう悪闘の色女なんですなあ。この女 が20両とか25両とかっていうのはその 徳次郎に頼まれた金なんですな。右から左 というわけですよ。 は鶴像の呆然としている顔に頷いて見せた 。 旦那がおっしゃるように巻き上げにかかっ たわけです 。お父が口をつむと部屋を深い沈黙が閉め た 。親ぶさんですか?不に顔をあげておこが 言った 。そうだよ。私は熊町のおかぴきでね、 お父というもんだ 。それじゃお聞きしますけど、徳次郎は もう捕まったんですか ?それがさあ 、お父はおに向き直った 。おついの夜捕まえるはずだったのだが、 邪魔が入ってね、今朝になってやっとたと いうのを捕まえたんだ。こいつは徳次郎の 居場所を知ってるんでね。ところが 吐き上がらねえ 。それでお前さんに聞こうと思って足を 運んできたわけさ。どうだね。聞かせて くれるかね。お前さんがたという野郎から 徳次郎が隠れている場所を聞いたことは 分かっているんだ。 旦那コンは小さく首を振り、それから奇妙 な微障を浮かべていった 。たけちゃんが言わないものを私が言うと 思いますか ?おこの美少には不ぶしいものが現れ始め ていた。その笑顔をおこは鶴像に向けて 同意を求めるように頷いて見せた。 恐ろしいものを見るように鶴像はおの笑顔 を眺めた 。目の前にいるのは鶴像の知らない1人の 中年女のようだった 。その中に鶴像はもう1度遠い昔の少女の おかげを探したが見えなかった。 [音楽] 今回の朗読はいかがでしたか?それでは また次回お楽しみに。 [音楽] [音楽] パパパ

💬子供の頃に、同じ寺子屋に通っていた👧🏻少女に好意を持っていた小間物屋の👦🏻主人。
色白で無口で賢かった少女が今、いかがわしい店で働いていると知り、35年ぶりに彼女と再会するが❗❓

🐸元博徒打ちの岡っ引の善悪両面の人物設定が魅力的!

【主な登場人物】
篠崎良助 ----- 南町奉行所同心。音次の上役。
音次 ------- 熊井町の岡っ引。元博徒打ち。

鶴蔵 ------- 小間物屋を営む商人。二人の子供がいる。45歳。
おなみ ------ 鶴蔵の女房。
おまつ ------ 鶴蔵の幼馴染。小料理屋の酌婦。43歳。
おこん ------ 鶴蔵の幼馴染。小料理屋「若菜」で働いている。43歳。
おせき ------ 小料理屋「若菜」の女中。

由太郎 ------ よしたろう。小間物屋「井筒屋」の息子。
深見清左衛門 --- 寺子屋を開いていた中年浪人。
徳次郎 ------ 人を殺めて逃亡。36歳。
たけ ------- 徳次郎の手下。

【用語解説】
🎎新内節(しんないぶし)
鶴賀新内が始めた浄瑠璃の一流派。

🪕新内流し (しんないながし)
新内節の三味線奏者が、街頭や飲食街を歩きながら演奏する営業形態の一種。

🪮小間物屋 (こまものや)
櫛 (くし)、笄 (こうがい)、簪 (かんざし) などの婦人装飾品や日用品を扱う店のこと。

🏡裾継(すそつぎ, すそ)
江戸時代、江戸深川にあった岡場所、三櫓(表櫓・裏櫓・裾継)の一つ。
裏櫓に隣接し、油堀に面した地域。現在の江東区門前仲町二丁目にあたる。
遊郭街。

🗡️合い口(あいくち)
鍔(つば)のない短刀のこと。

📌目次
00:00:00『オープニング』
00:00:28『しおり1』
00:15:15『しおり2』
00:29:21『しおり3』
00:42:03『しおり4』
00:54:10『しおり5』
01:07:15『エンディング』

👦🏻藤沢周平(ふじさわ しゅうへい, 1927年 – 1997年)
山形県生れ。山形師範学校(現在の山形大学)卒。
中学の教員、業界紙の記者を経て、1971年に作家となる。

【主な代表作】
1973年『暗殺の年輪』
1983年『たそがれ清兵衛』
1984年『海鳴り』
1985年『白き瓶』
1988年『蟬しぐれ』
1988年『市塵』

【主な受賞歴】
1971年『溟い海』でオール讀物新人賞を受賞、作家デビュー。
1972年『暗殺の年輪』で第69回直木賞。
1986年『白き瓶』で吉川英治文学賞。
1989年 作家生活全体の功績に対して菊池寛賞。
1990年『市塵』で芸術選奨文部大臣賞。
1994年 朝日賞、東京都文化賞を受賞。
1995年 紫綬褒章を受章。
1997年 山形県県民栄誉賞を受賞。
1997年 鶴岡市から『顕彰の記』が贈与、鶴岡市特別顕彰。
2010年『鶴岡市立藤沢周平記念館』が開館。

【関連ワード】
藤沢周平, 邪剣竜尾返し, 臆病剣松風, 暗殺剣虎ノ眼, 必死剣鳥刺し, 隠し剣鬼ノ爪, 女人剣さざ波, 悲運剣芦刈り, 宿命剣鬼走り, 酒乱剣石割り, 汚名剣双燕, 女難剣雷切り, 陽狂剣かげろう, 偏屈剣蟇ノ舌, 好色剣流水, 暗黒剣千鳥, 孤立剣残月, 盲目剣谺返し, たそがれ清兵衛, 山本周五郎, 宮部みゆき, 池波正太郎, 鬼平犯科帳, 司馬遼太郎, 竜馬がゆく, 平岩弓枝, 向田邦子, 岸田今日子, 松本清張, 横溝正史, 江戸川乱歩, 赤川次郎, 西村京太郎, 夏樹静子, 村上春樹, 東野圭吾, 綾辻行人, 湊かなえ, 角田光代, 小野不由美, 浅田次郎, 阿刀田高, 宮本輝, 時代劇, 時代小説, 歴史小説, 推理小説, ミステリー, サスペンス, フィクション, ノンフィクション, sf, 恋愛, ロマンス, 童話, 絵本, ドラマ, ラジオドラマ, 作業用, 睡眠用, bgm

【関連リスト】
🖊️藤沢周平
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usU4AaJMJWB9BBEYhnB-UK7t

🖊️山本周五郎
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usXDLwvChZKeY88DfpIxf-ch

🖊️宮部みゆき
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usWy_iVbjgmCy8EjYhIBSuvU

🖊️司馬遼太郎
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usWWgSXaY6TCH9lw_aNZ28aO

🖊️平岩弓枝
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usXZJy_iEmLdo6upI2tntH8m

🖊️柴田錬三郎
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usWr0xNy9OG0CjbWRTXgYcIQ

🖊️岡本綺堂
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usWTovWp2IQ3dLBvMOPuq6-B

🖊️野村胡堂
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usXVg1P0oy931SUey2wZvm4O

🖊️谷崎潤一郎
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usVbXrRSxyfMTTvwdZAEHZDz

🖊️井上ひさし
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usWStNzbQ6QzDaqCLhXs7rup

🖊️中島敦
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usWX3kcxOBUbofW0-mj-kK94

🖊️菊池寛
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usVEWAmYwiw_55cinmwes3l_

🖊️水上勉
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usXKqcx0tKKVs7Sp-UXUvJNN

🖊️宮本武蔵
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usV1x4UFE28OUZRMELcdLKLk

🖊️山田風太郎
👉https://youtube.com/playlist?list=PLSr72dsO_usUgDUmSAbZPxjph2IvOTsj_

【作成した再生リスト】
👉https://youtube.com/@Radio.Midnight.FM.Station.2023/playlists

【作成したポッドキャスト】
👉https://youtube.com/@Radio.Midnight.FM.Station.2023/podcasts

💖宜しければチャンネル登録をお願い致します! (o^-^o)
👉https://youtube.com/@Radio.Midnight.FM.Station.2023

#朗読 #市井小説 #藤沢周平

Write A Comment

Pin