桐のけわい/木村麻耶
桐のけわい
作曲:木下正道
エレクトロニクス:中嶋達郎
委嘱初演
箏/木村麻耶
2025/11/30
木村麻耶箏リサイタル-Curiosity-より
「けわい」とは「気配 (けはい)」の古い言い方です。この曲は、万葉集に収められた大伴旅人の「日本琴の歌」を基に作曲しました
この文の概略を簡単に述べます。
大伴旅人の夢の中で、娘となって現れた琴が語り歌いました「日当たりの良い場所で育った桐が、このまま腐ちていくのかと思っていた所、良い職人に琴として切り出されたので、音色の分かる人の許に行きたいと願う」。
それに対して大伴は「いつか大事に弾いてもらえるだろう」と歌を返したので、琴は「ありがとうございます」と応えた、という感じです。
この文に関しては、これ以上私があれこれ書くより、検索していただくとずっと良い解説がいくつか出てきますので、それをお読みいただくのが良いかと思います。
音楽的なことに関して、まず箏は伝統的な調絃を基にしています。歌も、特殊なことはほとんどせず、伝統的なものですが、歌詞の読み方に関しては、平安時代の発音を AI などを使用して探りました。ですので、ちょっと聴くと何を言っているのかよく分からないかもしれません。
また電子音は、箏の調絃のそれぞれの音の周波数を「素数化」して、いわば「素数の音階」を作り、その上を円周率によって制御された正弦波の滑走音が延々と続きます。
これは純粋に「数学的」な作曲で、私の「感性」は入っていません。そこにトレモロが加わって、若干の「味わい」を提供します。これはいわば「宇宙」を提供し象徴すると考えていただいても良いです。
これらのことごとがないまぜになることで、古代と現代を直接的につなぎ、ある種の「異界的」な場を生成することを目論んでいます。
言葉の傍ら、音の傍らに潜む「禍々しいもの」を生々しく触知できるような、音楽とも呼べる体験を提供できればと思い、作曲いたしました。
▽歌詞
大伴旅人「日本琴の歌 巻五 八百十〜八百十二番歌」より
(【 】の部分が今回歌詞として使用した箇所)
【大伴淡等謹みて状す 梧桐の日本琴一面 對馬の結石山の孫枝なり】
此の琴、夢に娘子に化りて曰はく、
【余、根を遥嶋の崇き蠻に託け、韓を九陽の休き光に晞す。 長く烟霞を帶びて山川の阿に逍遥し、遠く風波を望みて鴈木の間に出入す。 唯百年の後に、空しく溝壑に朽ちむことを恐るるのみ。 偶良匠に遭ひて、散られて小琴と為る。 質の麁く音の少しきを顧みず、恒に君子の左琴を希ふ】
といへり。即ち歌ひて曰はく、
【如何にあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上吾が枕かむ】
僕詩詠に報へて曰はく
【言問はぬ樹にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし】
琴の娘子答へて曰はく
【敬みて徳音を奉はりぬ。幸甚幸甚】
といへり。 片時にして覚き、すなはち夢の言に感じ、慨然として止黙をる を得ず。故公使に附けて、聊か進御る。
〔謹みて状す。不具〕天平元年十月七日 使に附けて進上る。 謹通 中衛高明閣下 謹空
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木下正道 (きのしたまさみち)
1969年、大野市生まれ。吹奏楽とハードロックの経験の後、東京学芸大学で音楽を学ぶ。武満徹作曲賞などに入選。作曲、企画、エレクトロニクスの即興演奏、を三つの柱として活動を展開する。ここ数年は年間20曲程度を作曲、初演。先鋭的な若手作曲家、演奏家たちによる企画に招聘されている。また大変なブルックナーマニアであり、2024年11月には、自らによる、ブルックナーの交響曲第九番の「第四楽章補作完成版」を演奏した。
3 Comments
Wow, amazing performance! Thank you for sharing.
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