小芝風花が見せてくれた”夢”が終わった…2回目の「おさらばえ」に込められた想いとは? 大河ドラマ『べらぼう』第14話考察 彼女の両親がお金を借りていたのは、鳥山を頭とする当道座ではなかった。けれど、同じように高利貸しで財をなし、そのお金で贅を尽くしたであろう瀬川が許せなかったのだろう。

 命までは取られずに済んだが、怪我をした瀬川に松崎は「私はお前らのせいでかようなところに身を落とされたのじゃ!」と迫る。だが、本を正せば、百姓の娘だった瀬川が女郎になったのは両親がきつい年貢に耐えきれず、吉原に売りつけたからであり、領主ひいては旗本も含む武士のせいとも言える。

 今から250年近く昔の出来事だが、ハッとさせられた人も多いのではないだろうか。様々な社会の歪みから生じる負の感情はいつだって弱者に向けられる。

「恨みの因果を巡らせても切りがありんせんのでは?」という瀬川の言葉で松崎も目が覚め、吉原で生きる覚悟を決めたようだった。

「巡る因果は恨みじゃなくて恩がいいよ。恩が恩を生んでいく。そんなめでたい話がいい」と蔦重の腕の中で囁いた瀬川。翌日、本を整理していた瀬川はふと『青楼美人合姿鏡』に目が留まり、ぱらぱらと本を捲りながら蔦重が自分に語った夢を思い出していた。

 蔦重の最終目標は、自分の本屋を持つことではない。本の力で世間様が吉原を見上げるような場所にすること。ひいては女郎が辛い思いをすることもなく、楽しい思い出をたくさん抱えて吉原を出ていけるようにすることだ。

 しかし、吉原が公に「四民の外」とされた今、蔦重がこれから歩む道はもっと険しいものになる。そんな蔦重にとって、多くの人に恨まれている自分は足枷にしかならないと判断した瀬川は身を引くことにしたのだ。

小芝風花が見せてくれた”夢”
「おさらばえ。いつの日もわっちを守り続けてくれたその思い。長い長い初恋を、ありがた山の鳶がらす」

 清々しさを感じさせた1回目の「おさらばえ」とは違い、2回目の「おさらばえ」には未練の香りが漂っていた。本当はずっと大好きな蔦重のそばにいて、一緒に夢を叶えたかったはず。

 その望みを、身を引き裂かれるような苦しみにも耐え、手放すことができたのは蔦重と鳥山からもらった愛があったから。瀬川は蔦重から教えてもらった本の楽しさと恋の喜びに支えられ、これまで生きてこられた。

 その恩を返したのだ。鳥山がそうしてくれたように、自分が身を引き、相手の望みを叶えるという方法で。

 瀬川は美しく気高く、でも天真爛漫さも残しており、抱き留めた腕をすり抜けていくような、鶴のような女性だった。そんな彼女には狭い鳥籠ではなく、広い空が似合う。どうか、これからは自由に、できるだけ長く幸せに空を飛び続けてほしいと願わずにはいられない。

 小芝風花が俳優として歩んできた13年間の総決算とも言える役柄だった瀬川。放送前から橋本愛演じるていが蔦重の妻として発表されていたため、多くの人は瀬川と蔦重が結ばれないことは分かっていた。

 だが、小芝の演技があまりにも素晴らしく、私たちはいつしか2人が結ばれるという幸せな夢を見ていたようだ。その夢から覚めた今、喪失感からは逃れられそうもない。私たちも、蔦重も。

 瀬川がそばにいない安永8年を迎え、ついに自分の店を構える蔦重。そんな彼にはもう1つの別れが近づいていた。

【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。 年が明け、鳥山に離縁された瀬川は蔦重の店を手伝い始める。一緒に売れる本を考えて、いつか瀬川が考えた瀬川の物語を売り出す。

 そんな風に想像を膨らませる中で、2人はいつもの調子を取り戻していった。童心に帰ってはしゃぐ彼らの姿は微笑ましく、いつまでもこの光景が続きますように、と願わずにはいられなかった。

 そんな中、鳥山の吟味(※取り調べ)が終わり、瀬以は奉行所に呼び出される。瀬以は厳重注意の上で無罪放免となり、「これより先は瀬以の面倒を見ることを遠慮したい」 という鳥山の意向で離縁することになった。

 これまではお金でしか愛を表現する術を持たなかった鳥山。しかし、全財産を失った今、愛する瀬以のために自分は何ができるかを牢の中で考え続けていたのだろう。

 瀬以が心から望むのは蔦重と一緒になること。鳥山はお金よりも手に入れることが難しい愛で、瀬以を自分から解放したのだ。「私はほんに幸せな妻でございました」という瀬以からの最大級の感謝に、「そなたの望みは何であろうと叶えると決めたのは、私だ」と応えた鳥山の表情はどこか満足げだった。

瀬川の決断
 こうして正式に瀬以は瀬川に戻る。蔦重が当初は瀬川が吉原に残り、本を売ることに反対していた駿河屋(高橋克実)も説得し、2人の夢はもう実現間近だった。

 ところが、瀬川は蔦重に別れも告げず、吉原を出ていく。幸せな夢から強制的に起こされたかのような衝撃。少なくとも2つの出来事が、瀬川の決断を後押しした。

 1つは吉原が公に「四民の外」とされたこと。きっかけは大文字屋が神田に屋敷を購入しようとしたことだった。すでに手付金も払い終えていたが、町名主の反対で契約が破棄に。

 怒った大文字屋が奉行所に訴え出たところ、逆に「そもそも吉原者は“四民の外”。市中に家屋敷を得るなど甚だ不届至極」と叱責され、今後吉原の人間が見附内(江戸城外堀の内側)に土地を買うことを禁じられてしまったのだ。

 そして瀬川が吉原を出ると決めたもう1つの理由は、自分に対する世間の厳しい風当たりを実感したことだ。吉原に帰ってきてから、松葉屋の寮で療養している女郎たちの看病を手伝っていた瀬川。

 そこで、堕胎後の経過が悪く寝込んでいた松崎(新井美羽)という女郎から瀬川は刃物で傷つけられる。松崎は前話にも一瞬登場しており、元は旗本の娘だった。しかし、両親が座頭金の返済に苦しみ自ら命を絶った挙句、吉原に売られてしまった松崎。横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、第14話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)

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蔦重(横浜流星)と瀬川(小芝風花)の切ない別れが描かれた 『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第14話
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第14話のタイトルは「蔦重瀬川夫婦道中」。その甘い響きとは裏腹に、蔦重(横浜流星)と瀬川(小芝風花)の身を引き裂かれるような切ない別れが描かれた。

 幕府による当道座の取り締まりで鳥山検校(市原隼人)と瀬以(小芝)が捕らえられてしまい、心配する蔦重。その後、裁きが下るまで鳥山は入牢、瀬以は松葉屋の預かりとなった。

 そんな中、大文字屋(伊藤淳史)から五十間道に空き店舗が出ると聞き、自分の店を持ちたいと考えた蔦重はさっそく忘八たちから独立の許しを得る。その頭にあったのは瀬以のこと。吉原で瀬以と再会を果たした蔦重は「できれば店、一緒にやらねえか」と誘う。それは実質的なプロポーズだった。

 瀬以の表情には一瞬喜びの色が浮かぶが、すぐに憂いを帯びる。あくまでも瀬以は鳥山の妻。1400両もの大金で手に入れた瀬以を鳥山が手放すなど考えられない。それにもし鳥山が財産を没収されるようなことがあれば、どこかに売り飛ばされる可能性だってある。

 そうやって人間は気づくと最悪のシナリオばかり考えがちだ。起きてもいないことに不安や恐れを抱く。未来はどうなるかなど、誰にも分からないというのに。「だったら、とびきり楽しい想像を」と2人に教えてくれたのが、朝顔(愛希れいか)だ。

 これまで2人はその教えに支えられ、時には理想の未来を自分の手で作り出そうとしてきた。

「今はいいように考えねぇ?」という蔦重の言葉で、瀬以の暗く沈んだ表情がパッと明るくなる。そこから2人は、人に鼻で笑われるような、幸せしかない夢を描いた。

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