『あんぱん』中沢元紀や『カムカム』村上虹郎を輩出 朝ドラの“弟役”は若手俳優の登竜門に
連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合)では、判断が付きづらい絶妙な強度で恋愛の矢印が表現されている。例えば、豪(細田佳央太)から蘭子(河合優実)への愛情。第28話の「毎日会ってます」という一言で蘭子への恋が明確になったものの、それまではどちらともつかない感情表現のみにとどめられていた。 【写真】海辺で並ぶ北村匠海、中沢元紀、高橋文哉 第7週で豪と同じような役割を担っているのが、嵩(北村匠海)の弟・千尋(中沢元紀)だ。千尋からのぶ(今田美桜)への感情がどういった種類のものかは、はっきりとは明言されていない。しかし、パン食い競争でのぶを助けたり、優勝商品のラジオを譲ったりと、千尋からのぶへの普通ではない優しさがあるのは事実。第32話で、仲直りをするのぶと嵩を見ている千尋の表情や、メイコ(原菜乃華)の歌を聞いている時ののぶへの目配せからは、安堵以上の含みが感じられた。中沢の繊細な演技力が光るシーンだった。 朝ドラにおいて、ヒロインの兄弟、姉妹というのは物語に厚みを出す存在だ。千尋と同じヒロインの相手役の弟としてまず思い浮かぶのが、『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期/NHK総合)の雉真勇(村上虹郎)。勇は、ヒロイン・安子(上白石萌音)に分かりやすすぎるほどのいじらしい好意を寄せていたが、その恋は叶わなかった。安子とは義理の弟として関わるようになり、姪のるい(深津絵里)とも良好な関係を築いていく。物語の前半では、安子への恋心に翻弄され葛藤する姿が切なく、老年期は安子とるいへの行動を後悔する姿を見せるなど、100年にわたる物語の1本の軸として存在した人物であった。村上は、嫉妬に追い詰められていく青年期の勇の苦しさがひしひしと伝わってくる演技力を見せた。 ヒロインの弟として印象深いのは、『虎に翼』(2024年度前期/NHK総合)の猪爪直明(三山凌輝)や『ブギウギ』(2023年後期/NHK総合)の花田六郎(黒崎煌代)だろうか。 直明は、猪爪家の末っ子。初登場時は言葉もままならない幼児であったが、戦後猪爪家に戻ってきた際には立派な青年として成長を遂げていた。男性が少なくなった猪爪家で進学を諦めて大黒柱として働きに出ようとしたり、結婚後に妻と共に猪爪家で暮らそうとしたりと、直明の中には戦時中家にいられなかった悲しみや寂しさが常にあった。三山はそんな直明の一言では言い表せない苦しさを繊細に表現。また、寅子が仕事に熱中して家庭に目を向けられなくなった際には、家庭を守る花江(森田望智)との間に入るなど、寅子のサポート役としても活躍。三山は青年期の直明が持つ末っ子らしい可愛らしさ、物事を俯瞰する冷静さなど、直明の多面的な魅力を見事に演じてみせた。 『ブギウギ』の花田六郎は、直明のように頼れる弟というよりも、もっと愛らしさに溢れた弟だった。一方で、自分の出生に秘密を知ったスズ子(趣里)を純真無垢な愛情で支えた。戦時中には、母・ツヤ(水川あさみ)が病床に伏せている時に、召集令状を受け取ることに。六郎の素直な無邪気さと戦争、ツヤの病の対比は切なく、黒崎は六郎の無邪気さの中に戦争への恐怖が滲むような感情を絶妙な表情で表現してみせた。 ここで紹介した印象深い弟役を演じてきた俳優たちは、誰も20代だ。村上は映画『キリエのうた』や『陰陽師0』など注目作へ出演、三山はドラマ『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)でメインキャストに抜擢。黒崎は映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』で関心を集めており、秋には初主演映画『見はらし世代』が公開予定だ。朝ドラのヒロインやヒロインの相手の弟役は、若手の登竜門の一つと言えるだろう。 『あんぱん』で嵩の弟・千尋を演じる中沢元紀は、『下剋上球児』(TBS系)や『ひだまりが聴こえる』(テレビ東京系)で注目され、その実力は折り紙つき。『あんぱん』の千尋役がさらなる飛躍へのエネルギーとなることだろう。